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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)138号 判決 1952年11月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士植田完治の上告理由第一点について。

所論は、原審で被上告人は代物弁済の予約の不存在を主張したに止まり、代物弁済の予約の無効については主張していないのであるから、これを無効と判断した原判決は、民訴一八六条に反し、当事者の申立てざる事項につき判決をした違法があると主張している。しかしながら、原審で被上告人代理人は、「本件は予謀によつて無智な弱い控訴人を陥穽に誘致した案件である」と述べている。上告人代理人は、「本件消費貸借は決して控訴人の窮迫、軽卒、もしくは無経験を利用して、著しく不当な利益を得ることを目的としたものではない」と述べ、さらにまた「控訴人は北浜の株式仲買人の店に勤めていたこともあつて金銭理財に全然無智なものではない。本件貸借の期限が極めて短いのは、期限内の利息を天引することにより控訴人の手取金が少くなる関係上、控訴人の希望したによるものである。又当時大都市が米機の空襲下にあつて、屡々爆撃のあつた際のこととて、不動産の交換価値も著しく低下しており、従つて本件宅地建物は金五千円の貸金の担保としては決して十分なものでなかつた」とも述べている。されば、本件記録に徴し弁論の全趣旨から被上告人は本件代物弁済の予約は公序良俗に反する無効のものであるとの趣旨の主張をしたものであると認めることができる。それ故、この無効について原判決が判断を与えたのは当然であつて、当事者の申立てざる事項につき判断を与えたものということはできない。論旨は採るを得ない。

同二点及び上告代理人弁護士稲垣利夫の上告理由第二点について。

上告人は原審において本件土地建物の当時の価額に関し、被上告人申請の鑑定の結果に対すを反証として再鑑定の申請をしたに過ぎないものであるから、いわゆる唯一の証拠方法とは認められないし裁判所は当事者の申出た証拠方法でも審理の経過から見て必要のないものと判断し得る場合には、取調べなくとも差支えないのである。また所論のように、原審が上告人のした鑑定申請の採否につき何等の決定をせず結審をしたとしてもその代理人である弁護士が何等の異議を述べなかつた場合には、その申請を抛棄したものと解するを相当とする。論旨は、それ故に採るを得ない。

同三点及び弁護士稲垣利夫上告理由第一点について。

所論は、原判決が本件代物弁済の予約を公序良俗に反し無効だとするには、原判決の認めている事実の外にさらに特別事情が必要であると主張するのである。しかし、さらに特別事情が存することは多々益々するわけではあるが、原審の認めた諸事実を総合して本件代物弁済の予約を公序良俗に反し無効であると断定し得ないものではない。その他所論は原審の事実認定、証拠の取捨判断を非難しているが、これは適法な上告理由として認め難い。それ故、論旨はすべて採ることを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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